2025.04.30 Wed
本レポートでは、事業報告会「YUUREEGWa 2024>2025」の当日の模様について、各事業者の発表とアドバイザリーボードのコメントを要約してご紹介します。
★レポート前編はこちら>> Report(前編)
○株式会社 PALI ※オンライン参加
〈島に根付く文化芸術の継承に向けたアートワークショップ事業〉
PALI GALLERYを拠点に取り組んだ1年間。宮古島内外のアーティストや有識者を招き、アーティスト・イン・レジデンスや、アーティストと島の人々が一緒に作る展覧会やワークショップを実現できた。特に、島ではなかなか体験できない藍染ワークショップは大変好評だった。他者(アーティスト)の眼差しを通して、これまで当たり前だったことが全く違って見えることが展覧会を通して分かった。アーティストと市民が交流できる機会では、多様なカテゴリーの人が集い、交流が生まれていたことも新鮮で、顔見知りの方々の中でも新たな一面を発見することができた。今後も、積極的にアーティストを招聘し、宮古島の皆さんに多様なアートと触れる機会をつくっていきたい。アンケートも継続して実施し、地元の皆さんの意見を反映させながら、地元での各団体とのつながりもより強化して、ギャラリーだけに留まらず島内で開催されるイベント等にも積極的に参加していきたい。
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○沖縄(うちなー)ファミリーヒストリープロジェクト実行委員会
〈沖縄(うちなー)ファミリーヒストリープロジェクト〉
本プロジェクトは、県系移民を中心とした沖縄の歴史と文化への理解、現代における文化の多様性への理解促進が目的。今回支援をいただき、沖縄から移民したウチナーンチュのファミリーヒストリー(家族の歴史)を聞くトークイベント(ハワイ編、ブラジル編、鶴見編)を軸に、移民関係者へのヒアリングやワークショップ教材「うちなーファミ歴タイムライン」の開発にも取り組んだ。開発した「うちなーファミ歴タイムライン」は、まだまだ改善が必要だが、クイズ感覚で学べるワークショップ教材となっており、移民の歴史やその思いが共有できる内容になった。今回開発した教材等を通して、移民のファミリーヒストリーを学び合うことで、沖縄の地に潜む新たな魅力が発見されると同時に、国際理解、異文化理解に寄与することができると考える。今後は開発したワークショップ教材を県内や県外、海外でも展開していきたい。私達自身、以前はうまく言語化できなかった部分も多くあったが、本事業の支援を受けたことで、改めて沖縄の歴史文化を深く知ることができ、言語化できたような気がした。
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○崎枝公民館
〈崎枝地域の歴史を記録した本と写真を活用した後世に継ぐための環境整備事業〉
石垣島崎枝地域は、1949年に自由移民として入植がはじまってから2024年で75年が経つ。現在、40世帯中、地元が10世帯あまり。近年は移住者も増え、今こそ崎枝地域の歴史を改めて知ることが重要だと考え、組織発足75年を機に今回の事業に応募した。支援をいただき、記念本「崎枝回顧録」と写真集「ふるさとの記憶」の2冊を制作・発行することが叶った。記念本の制作は金銭的な課題も大きい。本事業で支援をいただけたことが本当にありがたかった。崎枝小中学校で開いた講演会・交流会「崎枝入植75周年を記念して」では、崎枝小中学校で教鞭をとった先生や地元の方3名に講演いただいたほか、子どもたちからの質問コーナーも設け、「給食はどんな給食でしたか?」など子どもたちからの素朴な質問に先輩方が答えるというやりとりが好評で、本事業の1番の成果といえる瞬間だった。今後も地域の歴史を学ぶ機会を創出して、学校にも積極的に足を運びたいと考えている。本事業のお陰で郷友会とも交流をもつことができたので、引き続き一緒に地域の状況を考えていける関係性を構築していきたい。
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○With Art うらそえを考える会
〈ステップアップ!With Art うらそえ〉
昨年度に続き2年目。「ステップアップ!」と題したように、昨年からの継続事業と新規事業に楽しみながら取り組んだ。昨年に引き続き、浦添市美術館での「Art マルシェ2024」と市内各所のArtスポットを結ぶ「春のArt フェア」等を開催することができた。「Art マルシェ2024」は集客が予想より少なく、開催日の設定等に課題が残った。アートで地域を盛り上げる取組が活発に行われている香川県の小豆島へ視察に行くことも叶い、さらに小豆島の行政の皆さんともお会いすることができ、貴重なお話を伺うことができたのも非常に有意義だった。課題は、これから事務局の体制をどう維持していくかという点と、収入を得ず助成金を頼りに活動中なので、資金面をどうクリアできるかが大きな問題。その一方で、県内の既存文化団体の高齢化も進んでいる現状があるため、今後、団体同士を結びつけていくことも必要だと感じている。2025年は浦添市が市政55年を迎えるメモリアルな年なので、うまく活用して市民を巻き込めるような取り組みを実施していきたい。
○「沖縄戦と平和劇」実行委員会
〈「戦争体験の継承」平和劇ロングラン公演プロジェクト〉
戦争証言を直接聞くことが難しくなった今、どのように証言を語り継いでいくかが課題となっている。戦争証言を語り継ぐ手法、選択肢としての定着を目指して、演劇による継承に挑戦してきた。今回初めて支援を受けて「沖縄戦と平和劇ロングラン公演」(10月〜12月/全24公演)を実施。600名余りの方々にご来場いただけたほか、JTB大阪教育事業部等を訪問し、修学旅行生へ向けたプログラムの提供を柱に協業体制の構築についても模索を図った。平和劇のロングラン公演を継続する中で感じたのは、私たち演者側が戦争や平和について、今以上に考えなければならないということ。時には眠れない日もあった。実際に舞台を鑑賞してくださった戦争体験者の方から、「実際はもっと酷かった…」という言葉もいただいた。今後も全力を尽くして思考し続けていきたいと感じている。補助をいただいたので、本事業を達成できた。今後は自走化を目指し、沖縄に何らかの形で貢献していきたい。2030年を目処に目標の売り上げ額を達成できるよう継続して取り組む。
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○2.24音楽祭実行委員会
〈沖縄・アジア平和音楽祭 2025〜文化交流を通じた国際共生を目指して〜〉
これまで県内の観光・教育分野や国際交流機関、開催地の事業者らと協力し、「2.24音楽祭」を実施してきた。今回は支援をいただき2月23日・24日の2日間にわたって「2.24音楽祭 2025」(会場:コザ・ミュージックタウン音市場)を実施。出演アーティストには県内外はじめ、東アジアから3組のアーティストに参加いただいたほか、20名以上のトークゲストにもご参加いただき、音楽と対話を通して国際交流を実現することができた。本番前には、出演アーティスト等へ向け「沖縄基地の現在を知るツアー」も行い、沖縄戦や沖縄の基地問題について知ってもらうことができた。今回は中華圏のアーティストが主だったが、次回は是非韓国のアーティストも招聘したいと考えている。というのも、今回出演くださった中国のアーティストが「北京、香港、台湾のアーティストが同じ席でお酒を飲む機会は今までなかった」と仰っていたからだ。中国国内でも地域によって複雑な問題を抱えている実情がある。もしかしたら沖縄が、政治的・心情的な壁を超えて、対話・交流できる場所になれるのではないかと大きな可能性を感じた。今後も継続して活動を模索して、沖縄から東アジアへ、戦争や平和について考える機会を創出していく。
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○あなたの沖縄
〈個人的な体験から沖縄を表現する新たな言語を獲得するための市民活動〉
個人的な体験から「沖縄」を語る新たな言葉の獲得を目指してこれまで活動を継続してきた。今回は、3つのトークショーを企画・実施できたほか、冊子の刊行記念イベントをはじめ、県内で活躍する写真家や演出家を講師に招いた全3回のワークショップ「私も知らない自分の言葉〜アーティストと表現をつるくワークショップ」を初めて実施し、各15名にご参加いただき実施することができた。アート関係者だけでなく、多様な職業、出身地、世代の方に参加いただき手応えを感じた。宮古島では、私たちも自らが講師となってワークショップを開催し、大変好評をいただいた。私たちの活動はあくまでも市民活動。仕事をしながら展開している点が面白い部分だと感じている。今後も活動を継続し仲間を増やしていけたら嬉しい。次年度も支援をいただけるよう是非挑戦したいと思っていて、ワークショップを通して、参加者と一緒にZINEを制作・発刊することが目標。私たちの活動はすごく高尚なものではなく、それぞれの言葉で「沖縄」を語ることにフォーカスしている。これからも互いに学び合い、それぞれが獲得した自分なりの言葉で「沖縄」を語れる人を微力ながら増やしていきたい。
○一般社団法人ビューローダンケ
〈クラシックでしまくとぅばワークショップ事業〉
支援を受けて「沖縄らしいクラシック音楽の語り口」を探求してきた3年間。常にトライ&エラーを繰り返してきた。今年度は、昨年度に引き続きワークショップ実施に加えて、3年間の事業を振り返るフォーラムの開催やパンフレット制作にも取り組んだ。「沖縄らしいクラシック音楽があるのではないか」とひとりで始めた取り組みだったが、次第に仲間を得られ、考え続ける場をみんなで共有できたのが大きかったし、3年目は大学機関と連携した事業実施につなげることができた。決して思考停止状態に陥ってはならないし、私たちはまだ自分たちの声を持っていないということに気づけた3年間でもあった。課題としてはやはり収入面で、本事業を自走化させることは難しいということを突き付けられている。引き続き、沖縄県立芸術大学との連携を模索しながら、沖縄のクラシック音楽を探求していきたい。この3年間、各分野で多様な文化芸術に取り組む皆さまの存在が常に背中を押してくれた。伴走してくださったアーツカウンシルの皆さまにも感謝している。
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○ヨルベ
〈アーティストの労働環境を整えるための実践講座〉
沖縄のアートワーカーが置かれている環境の改善を目指し、契約に対する認識不足やハラスメントの問題など、業界が抱える課題に向き合うための講座・ワークショップに取り組んだ。
トークイベント「#男性学から考える!男たち、こんな時どうしてる?〜アート、映画、音楽、そしてファンダムについて〜」、「無自覚に誰かを傷つけないようにするための人権講座」等の事業を通して、アーティストはじめ多くの方との交流や、意見を出し合う場を創出できたと感じている。課題は、問題意識を持っていない層にどうアプローチして会場に足を運んでもらうか。また企画者である私たちアーティストは、収入面も含めてどのように活動を継続していくのかがまだまだ展望できておらず多くの課題が残る。昨今の資材高騰が創作活動に与える影響、ジェンダー問題等、難しい問題が出てきている。沖縄のアートワーカーが置かれた環境を整えるためにはどうするべきか…。今直ぐに答えが出るものではないので、引き続き地道に活動を継続していきたい。
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○ESM OKINAWA キュレーター内間直子
〈海外レジデンスプログラムを通して共同企画を育み文化交流を促す〉
支援を受けて、ポーランドのBWAヴロツワフ現代美術館とニューホライズン国際映画祭にレジデンス参加し、現地での調査や様々な機関との協働によるプロジェクトの開発を行った。ポーランドは、今まさに開拓する余地がある場所だと感じたし、沖縄のアーティストを積極的にポーランドへ紹介して送り出したいと思っている。アーツマネジメント講座&ポートフォリオレビューでは、ジャンルや年齢を問わず声をかけ、定員を上回る方々にご参加いただき、情報共有、交流の場を創出できたのではないかと手応えを感じている。今回ご支援をいただき作成した冊子「OKINAWA BASE」では26組のアーティストをまとめることができた。本冊子は既にポーランドはじめ海外へ配布済みで、今後これをどう生かして展開していくかが重要だ。今回の事業を通して多くの方に感想をもらった中でも、「創造的な国際交流は数値では表せない」という言葉が強く印象に残っている。引き続きアーツカウンシルの皆さまにもアドバイスをいただきながら、展開を模索していきたい。
若林 朋子 委員
2024年5月の審査からあっという間に10ヶ月が経ち、審査会での皆さんとのやりとりを思い出しながら発表を聞かせていただいた。約1年間で実施されたそれぞれの事業は、私の想像を遥かに超える非常にひろがりのあるものだった。沖縄アーツカウンシルに関わる中で思うのは、やはり、他地域にはない文化資源が多くあって、それを皆さんが懸命に丁寧に掘り起こし、発信しているということ。一つひとつの事業が際立って個性がある。発表いただいたいくつかの事業で共通していた「言葉にする」という試みが印象に残っている。沖縄の文化芸術を各地で担う皆さんがこうして一堂に集まるのは滅多にない機会だと思うので、それぞれの熱い思いを「言葉」にして、それぞれの成果や情報、考えを互いに共有して、どんどん仲間をつくって、今後も活動を展開していって欲しい。
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林 立騎 委員
一つひとつの事業が素晴らしく、むしろ私たちのほうがそこから学び、次のアクションにつなげていかなければならない。今日の発表からは、いまの沖縄の文化芸術の状況が見えてきた。どこに課題があり、可能性があるのか。それらを受け取って、それぞれの主体、例えば県や振興会、公立文化施設が、各々の立場で何ができるかを考えなければならない。補助金の構造的・金銭的な部分に対してご不満もあったかと思う。報告会という場のしつらえ上、事業者から問題提起することはなかなか難しい。私たち自身も、この補助金の仕組みはまだまだ改善の余地があると痛感している。プログラムオフィサーの方々には制度に対する不満や課題を聞いていただき、改善を検討してもらいたい。
皆さんの発表から感じたキーワードは「生活」。文化芸術は、長らく「祝日」やお祭りとして位置づけられてきたが、近年、「平日」をどうつくるかという関心に移ってきている。週末に大きなイベントをするのではなく、生活の中に文化芸術をどう接続できるか。そのときに、この補助金は生活の視点に対応できている仕組みなのか、事務作業なのか、考えなくてはならない。この補助金は「沖縄文化の産業化」という、営利的な産業にしていくというコンセプトで始まったもの。つまり文化を商品にしていくということで、そのため、補助回数を重ねるごとに補助率が下がる構造になっている。設立から13年が経ち、事業内容や傾向からは、「文化の産業化・商品化」ではなく、地域文化や生活と文化芸術の融合にポイントがあると思われる。それには、補助金の趣旨やありかた自体も考え直す必要があるだろう。今回学んだ多くのことを、次のアクションにつなげていきたい。新しい生き方を提起し、常識を更新しようと、文化芸術に取り組んでいる方がこれだけたくさんいることに勇気づけられた時間だった。
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大田 静男 委員
今年度は応募が66件もあったので、本当は全部採択したいところだが、今回は皆さん23事業者に絞って支援をさせていただいた。応募したい人、支援を受けたい人はもっと多いはずだが、特に離島地域においては煩雑な資料作成や手続きによって断念されている方も多いと思うので、応募書類等の見直しをしていきたい。
令和6年度に支援を受けた皆さんの取り組みは、「郷土文化を守りぬこう」とするもの、「新しく前に進めていこう」とするもの、極端だが大きく2つにわけられるように感じた。どうしても沖縄の歴史や文化は、少しでも掘れば、必ず戦争に行き当たる。2025年は戦後80年の年でもある。戦争と平和、それらをめぐる手法や問いがたくさん出てきているということは大変良いこと。その中でも、私個人としては「新しい新たな言葉を獲得する」ということを非常に重く感じた。考えていることを言語化すること、文字化すること、その間を流れているものは距離感がある。一つの言葉に複数の意味があり、多様な解釈ができる。辞書に書かれているものだけでは解釈できないということを実感している。これからも多様な取り組みが沖縄の文化芸術の新しい解釈につながればといいなと思う。
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宮城 潤 委員
本日の事業報告会、そしてこの1年間、大変お疲れ様でした。勇気を持って果敢に挑戦なさっている皆さんに敬意を表します。
林委員から言及されていたが、本補助金は「文化の産業化」を目的に始まったため、創設当初から自走化が求められてきた。私自身、過去に複数年の支援をいただいた経験がある。その当時から、自走化ではない成果のあり方を模索してきた。収益性は難しくても意義ある取り組みだからこそ公的支援が必要なのではないかと感じている。それぞれの立場から気づいた課題に対して旗を立てる、ワクワクする未来を提案するための補助金なのだと信じて続けてきた。補助金をつかって問題意識や可能性を社会化していく、色んな人と共有するためのチャンスを与えられているのだと思う。少なからず自己負担金が生じるし、日常生活のルーティン外のことで、必ずしもやらなくてもいいことをやっている。しかしながらそれは「社会的に価値がある」と、そう信じて皆さん挑戦しているはず。そこに経済的な価値がつかないというのが難しいのですが、それは尊いチャレンジです。沖縄アーツカウンシルの特徴は、幅広い取り組みが多い点。この場に集った担い手の方々、これまで支援を受けていた方々が横につながり、沖縄の文化芸術の厚みを持って発信していけたらいいなと思う。事業者の皆さん、そして伴走したPOの皆さん、お疲れ様でした。
令和6年度に支援した全23事業者による事業報告会「YUUREEGWa 2024>2025」。朝11時からスタートし、約8時間に渡って発表がなされました。発表の合間には、市場内外でのパフォーマンス披露も実現。目を引く衣装や流れてくる音楽に、「何か面白いことが始まるのかな?」と不思議そうに足を止める観客も多く、街中に即席の舞台が自然と生まれていたのが印象的でした。沖縄一といっても過言ではない賑やかな那覇の街の一角をジャックする形でパフォーマンスが実現したことは、沖縄の文化芸術を発信するという意味で非常に効果的だったのではないでしょうか。各事業者の気づきや直面する課題を、個々の事業者を超えて、多くの皆さまと共有・普及するということ。それが沖縄アーツカウンシルが担う役割の一つであり、今後も沖縄の文化芸術事業者の取り組みを発信していくための試行錯誤が重ねられていくことを願っています。
執筆:具志堅 梢