OKINAWA ARTS COUNCIL

メールニュースニュース登録

トピックス TOPICS

NEWS

2025.04.30 Wed

Report(前編):YUUREEGWa 2024>2025 〜令和6年度沖縄文化芸術の創造発信支援事業 事業報告会〜

令和6年度も「YUUREEGWa 2024>2025」(沖縄のことばで“寄り合い場”)と題して、2025年3月20日(木・祝)に那覇市第一牧志公設市場3階多目的室で事業報告会が開催されました。今年度支援した23事業者を7グループに分け、各事業者から、この1年間で取り組んだことや得られた成果、今後の課題等についてお話しいただきました。また、今回は第一牧志公設市場組合の皆さまにご協力いただき、市場の内外に特設会場を設けて特別パフォーマンスを披露することができたことで、昨年度以上に賑やかな報告会となりました。本レポートでは、各事業者の発表とアドバイザリーボードのコメントを要約してご紹介します。

>イベント概要はこちら https://okicul-pr.jp/oac/topics/yuureegwa2024-2025/
>事業者概要はこちら https://okicul-pr.jp/oac/wp-content/uploads/2025/03/R6_jireishu.pdf

【グループA】次世代とともに取り組む

演劇ユニット多々ら
〈次世代と考える身体的・心理的に安心できる創作環境の提案と実施〉
演劇ユニット多々らの「寄りみち公演」は、県内の高校生と共に演劇をつくる独自の企画で、これまで7年間取り組んできた。今回支援をいただき、高校生が身体的・心理的に安心して創作活動へ参加できる環境をどうつくっていくか、一緒に考える企画に取り組んだ。外部講師による演劇ワークショップやハラスメント講習会を実施できたこと。さらに舞台制作・発表、活動の認知度向上のためのドキュメンタリー映像の制作にも取り組むことができ、今後より良い創作環境の構築に寄与する成果を上げることができた。不慣れなことも多く、例えばワークショップのスケジュールがタイトになり過ぎたことや、高校生を守ることに集中し過ぎてしまい、運営スタッフが事業を通して感じていた不安要素等を共有することが難しかったことが課題として残った。やはり相談窓口の設置が必要だと改めて感じた。今回、助成金をいただいたが、金銭面としては、責任に対して充分ではなかったとも率直に感じている。今回の取り組みで得た気づきを今後に活かしていけるよう、活動を継続していきたい。

………………………………………

一般社団法人UNIVA ※オンライン参加
〈「Uni-q(ゆにーく)」演劇プロジェクト vol.2 Uni-q きょーげん(狂言)〜〉
石垣島では馴染みのない「狂言」に挑戦。本土から狂言師を招き2ヶ月程の稽古を実施し、12月28日に石垣市民会館で発表公演を実施できた。主役を演じた吉武航希さんからは、「大役を任され、プレッシャーから親に辞めたいと相談したこともありましたが、“最後までやり切りたい“との思いで舞台に立ちました。演劇を通して、障がいがある人、ない人関係なく、挑戦する手本の場になってくれたらいいなと思います」との感想も。今後の改善点としては、より効果的な宣伝活動を行ってサポーターを集めていきたい。演劇が好きなメンバーが集まってきたので、何とか活動を継続していきたい。メンバーからは自主公演をやりたいとの声があるが、どうすれば活動を継続できるのかという点ではまだまだ課題の方が多いと感じる。まずは直近、2025年3月末に公演を予定しているので、本公演で良い舞台をつくりたい。自走化できるようにビジョンを描きながら活動を継続して、石垣島に演劇の輪を広げていきたい。

………………………………………

聴色(ゆるしいろ) 李栄淑(リ ヨンスク)
〈対話型アート鑑賞でつむぐ人とアートの可能性〉
対話型アート鑑賞法「アートマインドコーチング」を用いて、子どもたちへ向けた対話型アート鑑賞を実施した。小学生へ向け全7回実施した際には、回を重ねるごとに子どもたちの言葉に変化が生じ、先生方からも前向きな感想をいただくことができた。また夫婦を対象とした対話型アート鑑賞も実施。「知らない一面を発見した」、「夫婦でアートや文化的なものに触れる機会がなかった、とても嬉しい」など予想以上に好評だった。今回、県内企業様からご支援をいただくことができたのも、文化振興会とのつながりが信頼性につながったのだと感じた。この1年間、集中してプログラムと向き合うことができたことで改めて対話型アート鑑賞はコミュニケーショントレーニングに最適なツールだと確信した。でも私1人でできることの限界も痛感した1年だった。まだまだ取りこぼしている方々がいることも知れたので、今後の活動に活かしていきたい。

………………………………………

城間小(ぐすくまぐゎ) 城間里加
〈マインクラフトで沖縄の歴史的建造物と未来都市の融合を子どもたちと考える〉
オンラインで何かをやるのが当たり前になってきた現代。仮想空間での建築・街づくりができるゲーム「マインクラフト」を用いて、沖縄の歴史的建造物・首里城と未来都市を創出する子ども向けのプログラミング講座を実施。多くの成果を得ることができた。全13回の講座には、小学1年生から中学3年生まで34名が参加。もう本当に子どもたちの想像が爆発! 改めて子どもたちの能力の高さに驚かされた。最後は11月3日(文化の日)にプレゼン大会を実施し、講座での成果を互いに共有できた点も良かった。北部地域からの参加者もいて、親御さんの意欲を強く感じた。中にはPCやゲーム機を持っていないお子さんもいたので、PCを貸し出し対応。そこも良かった点だったと感じている。子ども達の中から「首里城」×「防災」という言葉が出てきて、その着眼点に驚かされたのと同時に、今後もマインクラフトの講座を継続して行っていきたいと決意を改めた。宜野湾市に拠点を構える計画も進行中なので是非実現したい。

【グループB】沖縄独自の生活文化の価値を見つめ直し、伝える

有限会社スーチューマー
〈飲食店と学ぶ、沖縄・琉球の豚食文化〉
沖縄の豚食文化の継承に強い危機感を抱いたのが取り組みの原点。手間のかかる沖縄料理にも時短が求められている現代。一方で我々が“分かち難く結びついているもの”を改めて発見することができたプロジェクトとなった。地域における豚の屠畜・解体技術が失われてしまっている昨今の状況に危機感を持たなければいけない。沖縄では古くから「豚は鳴き声以外すべて食べられる」とも言われていて、豚肉の部位を捨てることなく食してきたが、時代とともに厳格化された「衛生」と「文化の継承」の間に障壁が生じている事実があって、県内でも屠畜技術を持っている人が減少しているのは明らか。豚肉を食べるのは好きなのに、沖縄の豚食文化について深く知らないのが我々なのです。本事業を通して実施した勉強会(全3回・名護博物館)にも約200名の方がご参加くださった。やはり多くの方が興味を持たれているのだと感じた。今後もこの素晴らしい沖縄の豚食文化を深く学び、発信して、多くの方に知って欲しい。今日は古くから伝わる沖縄の調理技術で作ったスーチカー(豚肉の塩漬)を持ってきた。後ほど振る舞いますので、ぜひ召し上がってください。

………………………………………

特定非営利活動法人来間島大学まなびやー ※オンライン参加
〈琉球狐の「みき」継承プロジェクト〉
米や麦、粟などからつくられる飲み物「みき」を、後世に残したい文化資源と捉えて、「みき」の文化的・歴史的価値の継承・普及・発信に取り組んだ。地域の皆さんのご協力もあり、「みき」についてのお話を沢山聞かせていただくことができ、各地域において「みき」が神事と深く関わっていることもわかってきた。中でも「みき」の認知度向上と普及を目的に開催した「みきサミット」(奄美市、糸満市、宮古島市、石垣市で開催)は新聞で取り上げていただき、広く関心を高めることができたと手応えを感じている。来年も是非開催したい。本取り組みの原点にあるのは、私達の拠点である来間島は人口165名程の小さな島で、神事の継承が非常に難しくなってきているという課題である。これは沖縄、奄美でも大きな問題で、祭りの継承が途絶える=みきの歴史も途絶えると考えるからだ。今回「みき」についての調査、取材、サンプリング、聞き取り等を通して、多くの方々と「みき」の未来について考える機会を設けることができた。「みき」は乳酸菌も多く、近年はその健康効果も非常に注目度が高まっているので、今後も「みき」の歴史や魅力を多くの方に発信して、ゆくゆくは商品化についても模索しつつ、互いに語りあえるような場を創出していきたい。

………………………………………

琉球薬草探究会
〈「琉球の薬草を楽しむ暮らし」推進事業〉
琉球薬草探究会は、沖縄の薬草文化を継承するためにはどうすればよいか、という個人的な問いから始まった。今回支援を受けてまず取り組んだのがWebでのアンケート調査、「旧暦行事や薬草文化等に関しての県民意識の調査」を行い、約800名もの方から回答をいただいた。また有識者8名へ聞き取り調査を行い、貴重なお話を聞くことができた。インタビューについては小冊子とブログで執筆し、貴重な資料としてまとめることができたのが非常に大きな成果だ。今回驚きの出会いもあった。薬草の調査を通して久米島のノロの方と出会えたことが本当に衝撃的で、聞き取り調査にもご協力いただき、久米島に根付く「祭祀と植物の関係」についても調査することができた。また、八重山での調査では、竹富島ビジターセンターのゆがふ館に書かれていたのは、「島に生えている雑草は99%薬草」だということ。薬草の知恵というのは古くから琉球でつながれてきたもので、地域に根付く薬草文化をもっと多くの皆さんに知ってもらって、いずれは沖縄県の長寿県復活にも役立てていけたらと考えている。

 

Cグループ】伝え、広めるための新しい手法を試作する

○Maeda Lacquer Project(漆工房・前田貝揃案)
〈琉球漆器螺鈿伝統技術を若者へ広げるための「Gateway 作品」試作事業〉
琉球漆器の伝統技術を継承し、現代の生活や価値観、ニーズに対応する新たな琉球漆器のあり方を模索して、若者はじめ幅広い世代に新たな漆芸の魅力に触れてもらおうと「Gateway(入口)」となるような作品を生み出すことを目指して事業に取り組んだ。琉球漆螺鈿アダプターの試作、革製品への漆着色実験等に挑戦したほか、「事業報告展覧会」(沖縄県立博物館・美術館 県民ギャラリー 12/10〜15)も実施することができた。1年を通して担当プログラムオフィサーのバックアップがとても頼もしく、理念や想いを理解してくれ、的確なアドバイスをいただけたと感じている。12月の展覧会には多くの方が見にきていただき、「予定調和で収まっていない」「沖縄への愛が伝わる作品が多い」「工芸品のイメージが覆った」など前向きなコメントも寄せていただき手応えを感じた。報告書の活字ではなかなか伝わらない部分もあると思う。来年度も展覧会を開催しようと計画しているので是非ご来場いただきたい。

………………………………………

仲尾次区
〈仲尾次豊年踊り次世代継承のためのWeb発信事業〉
130年以上の歴史を誇る名護市仲尾次の「仲尾次豊年踊り」を次世代へ継承するための第一歩として、若い世代に向けたWeb発信に取り組んだ。豊年踊りの各演目の紹介や歴史を紹介する「豊年踊りWebサイト」の制作、「豊年踊りの魅力を伝えるSNSショート動画発信」等、積極的に情報発信ができる体制を構築できたことで、若い方が気軽にアクセスしやすい環境を整えることができたのが大きな成果。アカウントを開設したInstagramでは、記事のこまめな発信や広告出稿をした結果、アクセス数も伸び結果につながった。仲尾次地区は人口減少の影響もあって担い手の確保が難しく、祭りの継承・存続に影響が出始めているが、名護地域には同様の課題を抱える自治体も多い。今後は支援をいただき培ったノウハウを、同様の課題を抱える他地域の豊年祭へも波及していけたらいいなと期待している。課題としては人材育成の面。これまでも少ない人数で何とか対応してきたが、構築した情報発信の体制・技術を活かして、先ずは仲尾次にルーツをもつ方々にもっと発信して、地域文化を改めて見直してもらえるように働きかけていきたい。

………………………………………

○G-shelter 代表 黒澤佳朗
〈メタバースを活用した、沖縄の魅力及び県内アーティスト活動の発信〉
インターネット上の3次元仮想空間「メタバース」にバーチャルライブハウスを設置し、世界に向けて県内アーティストのライブ活動を発信するとともに、県外アーティストとの共演や交流の機会をつくろうと考えた。課題としてはネット回線の問題等もあったが、結果的には各回300名を超える観客を動員でき手応えを感じている。12月に行ったライブ「むぎ(猫)がメタバースにやってくる!にゃー!にゃー!にゃー!」では、2023年に解体された「首里劇場」を仮想空間上に再現し、リアルでは衣装チェンジの為の待ち時間があるが、バーチャル空間ではその時間を確保する必要がないので、効率良くファンに楽しんでいただくことができた。支援を機に結成した“オリジナルのダンスチーム”の活動も、今後は積極的に行い、より多くの方にこの利便性の高い空間を活用いただき、エンターテイメントの枠を沖縄から広げていきたい。

【グループD】文化芸術を記録し、継承する

沖縄芝居研究会
〈沖縄芝居における大道具製作の技能伝承〉
存続の危機にある沖縄芝居の大道具製作の技術継承に向け、第一人者の新城喜一氏、榮徳氏の兄弟に直接指導をいただき後継者養成に取り組んだ。大道具製作の指導を半年で全6回実施し、その指導風景を映像に収めることができた。例えば、レンガや草むら等は板にペンキで描いた後に形を切り出すこと、茅葺き屋根の茅の質感を丁寧に描いていくこと等、仕事ぶりを間近に見ることができたのが本当に意義深かったと感じている。並行してお二人が管理する大道具や背景幕の写真撮影・データ保存にも取り組み、「新城喜一氏大道具画集」と「新城榮徳氏所有の背景幕写真集」(背景幕146枚を収録)の冊子をそれぞれ完成させたのは大きい。本冊子は今後カタログとしても活用できる見込みがあり、非常に価値のあるものになった。先生方の自宅は大道具や背景幕が家中所狭しとあって、長年一身に保存管理を担ってこられたんだなと痛感。大道具の製作、管理には「広い場所の確保」が必須なのだが、その課題については未だ結論が出せない状況だ。場所の確保は引き続き模索しつつ、いつかは、本事業を通して製作した大道具たちを沖縄芝居の本番の舞台へあげるのが大きな目標。

………………………………………

波平直毅
〈多良間島と沖縄本島を八月踊りの芸能で繋ぐことで人材育成を図る
私の父が主催し、多良間島の八月踊りの演目を継承する「金丸獅子」で活動している。今回、実際に多良間島へ渡り、八月踊りの歴史や獅子舞の技術について学ぶ機会を創出したいと考えチャレンジした。支援を通して実際に多良間島の方々から獅子舞の演舞をはじめ「ヨンシー」という演目も直接指導いただいたほか、着付け方法についても指導いただき、多良間島と同様に着付けが出来るようになったことが率直に嬉しく感じる。一方で、沖縄本島で我々が踊り継いできた獅子舞の型と多良間島の型とでは微妙に異なる部分があることもわかった。この30年程の間に型が変わってきていると考える。なかなか難しい課題があることも痛感したが、故郷の多良間島を思う気持ちは同じ。今は、デイゴの木を用いて獅子頭を新たに製作する計画も進行中。今後も島の皆さんとの連携を模索しながら活動を継続していきたい。

………………………………………

○DAICHIRO SHINJO
新城大地郎 ※オンライン参加
〈クロスミャーク 宮古島の祭祀写真展ー禅僧・岡本恵昭が撮った宮古〉
住職であり民俗学者の故・岡本恵昭氏が記録した宮古島の写真群。岡本が撮影した写真には、宮古島の祭祀や人々の営みが多く撮影されており、民俗学的且つ写真作品としても価値があると考え、改めて岡本恵昭の立ち位置について検証する必要があると考えた。岡本の孫でアーティストの新城大地郎氏を中心に、展覧会の開催、有識者を招聘したシンポジウムやトークショー等を企画・開催することができた。印象的だったのは、シンポジウムにゲストとしてお招きした島村恭則氏(関西学院大学社会学部長)から、「島に住む人が地元を掘っていくことが重要だ」との言葉をいただいたこと。今、宮古島は目まぐるしい変化に晒されている。今回岡本の写真群を通して、宮古島の根源にある精神文化を知り、文化を再考する機会を少なからず創出できたのではないか。取り組みを通して、岡本の写真群を多角的に検証していくことの重要性を感じた。古いフィルムをデジタル化する作業を進めており、近々書籍にまとめて出版する予定だ。多くの皆さんに岡本の写真を見ていただけるよう、今後も活動を継続していきたい。

★レポート後編へ>> Report(後編)
執筆:具志堅 梢